わかりやすい動機を3つ用意しました。データは、そのどれも認めませんでした。
「なぜわざわざサクラレビューを買うのか」。動機がわかれば現象も理解できる――そう考えて、私たちは最初にもっともらしい説明を3つ用意しました。全国規模の業者がいるから。悪い評判を消したいから。検索で勝てないから。ところが全国6,652の弁護士事務所・約65,000件のGoogle口コミを分析すると、この3つの予想は順に崩れていきました。以下では、何を予想し、なぜ外れたのかを一次データとともに辿ります。
異常な星5の集中を見つけたとき、その背後に動機を想定するのは自然なことです。私たちも、誰かが組織的に売っている、悪評を隠したい、検索で勝てないから手っ取り早く――という3つのストーリーを思い描きました。重要なのは、これらをただの印象で終わらせず、データで支持されるか棄却されるかを判定できる形にしたことです。以下、ひとつずつ検証します。
もし全国を股にかけるレビュー業者がいるなら、同じ投稿者が地理的に離れた多数の法人を横断して評価しているはずです。投稿者と法人のつながりを追いましたが、法人を横断する結束は弱く、最大でも3名程度にとどまりました。代わりに見えてきたのは、ひとつの事務所に投稿者が密集する単一法人内の集中です。広域に張り巡らされたネットワークという像は、データからは描けませんでした。
クレームや低評価が付いた直後に、星5をまとめて投入して平均を薄める。この「防御希釈」が起きていれば、低評価のあとに星5が偏って現れるはずです。低評価直後の星5を数え上げ、投稿の並びをランダムに入れ替える順列検定で「偶然そうなる水準」と比べました。結果は観測8,170件に対し期待8,199件、p≈1.00。偏りはまったく検出されませんでした。打ち消しのために後から動いているのではなく、見られる集中はむしろ先回り型でした。
検索で上位に出られない事務所が、その埋め合わせに口コミを買う――低DR補償説です。これが正しければ、ドメインの弱い事務所ほど異常度が高くなるはずです。しかしDRと異常度の相関はr=0.10とほぼ無相関で、SEOの強弱を問わず似た水準で異常が見られました。さらに、口コミ操作が検索順位を押し上げている形跡も確認できませんでした(順位×異常度 rho−0.06)。弱者の苦肉の策という構図も、効果による正当化も、データは認めませんでした。
予想した動機がすべて外れたあとも、149事務所で自然発生では説明しにくい星5の集中は確かに残りました。現象は実在するのに、わかりやすい理由づけは効かない。ここで一つの見方として浮かぶのが、心理学でいう社会的証明(social proof)――人は他者の評価を見て安心し、行動を決める、という性質です。組織でも防御でも順位でもなく、「他の人が高く評価している」という見え方そのものが信頼形成のチャネルとして重視されていると考えると、残った集中は整合的に読めます。
ただし、ここは慎重に線を引きます。本研究から言えるのは、少なくとも一部の事業者が、口コミを重要な集客・信頼形成チャネル(社会的証明)と認識している可能性が示唆されるところまでです。「効果があるからやっている」とは断定できません。むしろ順位への効果は確認できなかったのですから、効果の有無とは別に、口コミという見え方が重視されている――その可能性が、データと整合的だというにとどめます。
▶ この考察の根拠となった全国調査(本編)を読む 全国6,652事務所・口コミ65,000件のフォレンジック分析。順列検定や相関の一次データCSVも公開しています。A. 当初は全国的な業者組織・悪評の打ち消し・SEO弱者の苦肉の策の3つを予想しましたが、いずれもデータに支持されませんでした。データと整合的なのは、少なくとも一部の事業者が口コミを重要な信頼形成チャネル(社会的証明)と認識している可能性で、効果があるから買っていると断定できるわけではありません。
A. 本研究では確認できませんでした。法人を横断する投稿者の結束は弱く、つながりは最大でも3名程度で、異常の実態は全国組織ではなく単一法人内での密集に見えました。
A. 打ち消し型の使い方は支持されませんでした。低評価の直後に星5を投入して薄める「防御希釈」が起きていれば順列検定で偏りが出るはずですが、観測8,170件に対し期待8,199件(p≈1.00)で、むしろ先回り型の集中が見られました。
A. 低DR補償説も支持されませんでした。ドメインの強さ(DR)と異常度には相関がほとんどなく(r=0.10)、SEOの強い事務所も弱い事務所も似た水準で異常が見られました。検索順位への効果も確認できていません(順位×異常度 rho−0.06)。