効いていたのは「件数」で、「操作の痕跡」ではありませんでした。
「口コミを増やせばGoogleマップで上位に出る」――MEO(Map Engine Optimization)の世界では、よくそう言われます。では、サクラやお願いで口コミを操作すれば、本当に順位は上がるのでしょうか。全国の弁護士事務所のGoogleマップ実検索順位データ2,473行・127クエリを集め、各事務所のサクラ指標(投稿の異常度)と突き合わせて検証しました。結果は、世間のイメージとは少し違うものでした。
用意したのは二つのデータです。一つは、実際にGoogleマップで検索したときの表示順位。もう一つは、約65,000件の口コミ分析から算出した、各事務所の口コミの「異常度」(投稿の集中や使い捨てアカウントの多さなど、操作が疑われる度合い)と「レビュー件数」です。この二つの間に関係があるかを、順位データと指標との順位相関(Spearman相関)で調べました。相関の強さは-1から+1の値で示され、0に近いほど関係が薄いことを意味します。
まず、サクラの痕跡である口コミの異常度と検索順位の相関は rho=-0.06、p=0.31 でした。pが0.05を大きく上回っており、これは「統計的に意味のある関係は見られない」、つまり無相関を意味します。異常度が高い(操作の疑いが強い)事務所が、特に上位にも下位にも偏っていなかった、ということです。
一方で、口コミの件数と順位の相関は rho=-0.21、p<0.001 でした。強い相関ではありませんが、統計的にははっきりと意味のある連関です。これは、件数の多い事務所ほど上位に表示されやすい傾向を示します。口コミ件数がランキングの一要素であることはGoogle自身も示しており、その既知の傾向と整合する結果でした。
この二つを並べると、見えてくることがあります。順位と関係していたのは口コミの「件数」であって、口コミの中身が操作的かどうか(異常度)ではありませんでした。仮にサクラで順位が上がるなら、異常度の高い事務所ほど上位に来るはずですが、そうした傾向は確認できませんでした。
ただし、ここは慎重に書きます。今回、検索順位データと口コミ分析データの名称を照合できたのは12%(299事務所)にとどまります。残りは名寄せができず、対象から外れています。サンプルが限られる以上、「サクラは順位に効果がない」と断定することはできません。あくまで「この範囲では、順位への効果を確認できなかった」というのが正確な言い方です。
サクラが順位を直接押し上げる効果が本データで見えなかったとすると、口コミを操作する人たちは何に賭けているのでしょうか。一つの仮説は、順位ではなく「人の判断」への効果です。検索結果に並んだあと、★4.8で口コミが多い事務所を見れば、利用者は安心して選びやすくなります。これは社会的証明(social proof)と呼ばれる心理で、クリック率や問い合わせ率に影響する可能性があります。
つまり、口コミの本当の効き目は「順位を上げる」ことよりも、表示されたあとに「選ばれる」ことのほうにあるのかもしれません。ただしこれは本データで検証した結果ではなく、あくまで一つの可能性として示すものです。クリック率や問い合わせ率まで踏み込んだ検証は、今回の分析範囲には含まれていません。
最大の制約は、名称が照合できた事務所が12%(299事務所)にとどまったことです。順位データと口コミ分析データの名寄せが難しく、突き合わせられたのは全体の一部でした。そのため、相関の値は限られたサンプルに基づくものであり、母集団全体に一般化するには注意が必要です。「異常度は順位に効かない」という結果も、この範囲での観察にすぎません。データが増えれば結論が変わる可能性は残ります。私たちは断定を避け、観察された事実だけを提示します。
▶ この検証の土台となった全国調査(本編)を読む 全国6,652事務所・口コミ65,000件のフォレンジック分析。匿名の一次データCSVも公開しています。A. 本データでは、口コミの件数と検索順位の間に弱いながら有意な連関が見られました(順位とレビュー数のSpearman相関 rho=-0.21、p<0.001)。件数が多いほど上位に出やすい傾向はあります。ただし因果関係を示すものではなく、口コミだけで順位が決まるわけではありません。
A. 口コミの件数はGoogleが公表しているランキング要因の一つで、本データでも順位と弱く連関していました。一方で、サクラの痕跡である投稿の異常度は順位とほぼ無関係でした(rho=-0.06、p=0.31)。MEOにおける口コミの価値は、順位そのものより人の判断(クリックや問い合わせ)への影響にある可能性があります。
A. 本データの範囲では、それを裏付ける結果は得られませんでした。操作の痕跡である異常度と検索順位の相関はrho=-0.06(p=0.31)で、統計的に意味のある関係は確認できませんでした。ただし名称が照合できた事務所が12%に限られるため、効果がないと断定はできず、この範囲では確認できなかったという表現が正確です。
A. 件数が多い事務所ほど上位に出やすい弱い連関が見られました(rho=-0.21、p<0.001)。一方、件数の中身が操作的か(異常度)は順位とほぼ無関係でした。つまり関係していたのは「中身」ではなく「数」のほうでした。